はじめに

美容整形の中でも特にリスクが高いとされる「顎削り整形(下顎骨削り術)」。韓国を中心に人気を集め、日本でも施術を受ける人が増えています。しかし、この手術には深刻な後遺症のリスクが伴い、一生涯にわたって苦しむケースも少なくありません。本記事では、実際の後遺症事例と、手術を受ける前に知っておくべき重要な情報をお伝えします。

1. 顎削り整形とは

顎削り整形は、下顎骨の一部を切除して顔の輪郭を変える手術です。

  • 目的: エラを小さくする、Vラインの顔にする、小顔効果
  • 手術方法: 口腔内から切開し、下顎骨を直接削る・切除する
  • 麻酔: 全身麻酔が必須
  • 手術時間: 2〜4時間
  • 入院: 1〜3日程度
  • 費用: 日本では80〜200万円、韓国では50〜120万円
  • ダウンタイム: 腫れは2〜4週間、完全回復まで6ヶ月〜1年

2. 神経損傷による永続的な後遺症

⚠️ 最も深刻な合併症

顎削り整形で最も深刻なのが神経損傷です。下顎骨の近くには重要な神経が走っており、手術でこれらを傷つけると、一生涯にわたる麻痺や痛みが残る可能性があります。

下歯槽神経損傷

  • 発生率: 5〜20%と報告されている(施設によって大きく異なる)
  • 症状: 下唇、歯茎、顎、舌の感覚麻痺
  • 影響: 食事時に食べ物がこぼれる、唇を噛んでも気づかない、よだれが垂れる
  • 回復率: 軽度の場合は6ヶ月〜1年で回復することもあるが、重度の場合は永久的
  • 日常生活への影響: 飲食、会話、表情の制御が困難になる

顔面神経損傷

  • 症状: 顔面の一部が動かせなくなる(顔面麻痺)
  • 影響: 笑えない、目が閉じられない、口角が下がる
  • 審美的問題: 表情が不自然になり、社会生活に支障
  • 心理的影響: 外見の変化による自尊心の低下、うつ病

三叉神経痛

  • 症状: 顔面に激しい電撃様の痛みが走る
  • 頻度: 数分おき、または触れただけで発作が起こる
  • 治療困難: 薬物療法や神経ブロックでも完全には治らないことが多い
  • 生活への影響: 洗顔、歯磨き、食事が困難になる

3. 顎関節症と咀嚼機能障害

📊 術後の顎関節症発症率

顎削り整形後、20〜35%の患者が顎関節症(TMD)の症状を経験すると報告されています。

顎関節症の症状

  • 顎の痛み: 顎関節周辺の慢性的な痛み
  • 開口障害: 口を大きく開けられない(正常は指3本分)
  • クリック音: 口を開閉する時に「カクカク」「ゴリゴリ」という音
  • 顎のずれ: 口を開ける時に顎が左右にずれる
  • 頭痛・肩こり: 顎の筋肉の緊張から派生する痛み

咀嚼機能の低下

  • 咬合力の減少: 骨を削ることで噛む力が50〜70%に低下
  • 食べられるものが限定: 硬いもの、繊維質のものが食べられない
  • 栄養不良: 食事制限により栄養バランスが崩れる
  • 消化不良: よく噛めないため胃腸に負担がかかる
  • 体重減少: 食事が困難で体重が大幅に減る

4. 審美的な失敗と後悔

美容目的で行った手術が、かえって外見を悪化させるケースも多くあります。

左右非対称

  • 削りすぎ: 一方だけ削りすぎて顔が歪む
  • 段差: 削った部分と残った部分に段差ができる
  • 修正困難: 一度削った骨は元に戻らない
  • 再手術のリスク: 修正手術はさらに危険性が高い

顔のたるみ

  • 即時的なたるみ: 骨の支持を失った軟部組織が下垂
  • 老化の加速: 20代で手術して30代で顕著なたるみ
  • 法令線の深化: 口周りのシワが深くなる
  • マリオネットライン: 口角から顎にかけてのシワが目立つ
  • ジョール(頬のたるみ): 頬が垂れ下がる

不自然な輪郭

  • 過度に細い顎: 削りすぎて「作り物」のような顔
  • V字すぎる顎: 極端なVラインで違和感
  • 顔のバランス崩壊: 顎だけが不自然に小さい
  • 横顔の変化: 正面は良くても横から見ると不自然

5. 出血・感染症のリスク

顎削り整形は骨を切除する大掛かりな手術であり、重大な合併症のリスクがあります。

術中・術後出血

  • 大量出血: 下顎骨周辺には太い血管が密集している
  • 血腫形成: 術後に血液が溜まり再手術が必要
  • 気道閉塞: 腫れや血腫により呼吸困難に陥る危険性
  • 輸血の必要性: 大量出血時には輸血が必要

感染症

  • 骨髄炎: 骨の感染症で、長期治療が必要
  • 膿瘍形成: 膿が溜まり、切開排膿が必要
  • 敗血症: 全身性の感染症に進行する危険性
  • 抗生物質耐性: 治療に反応しない感染症

6. 心理的後遺症

📊 美容整形と心理的問題

美容整形で深刻な後遺症を経験した患者の約60%%が、うつ病、不安障害、身体醜形障害(BDD)などの心理的問題を抱えると報告されています。

  • 後悔と自責: 「なぜ手術を受けてしまったのか」という後悔に苛まれる
  • うつ病: 後遺症による生活の質の低下から抑うつ状態に
  • 不安障害: 将来への不安、修正手術への恐怖
  • 身体醜形障害の悪化: 手術前よりも外見へのこだわりが強くなる
  • 社会的孤立: 後遺症により人前に出られなくなる
  • 自殺念慮: 重度の後遺症により自殺を考えることも
  • PTSD: 手術や後遺症の経験がトラウマとなる

7. 修正手術の困難さ

顎削り整形で問題が生じた場合、修正は極めて困難です。

  • 骨は再生しない: 削った骨は元に戻らない
  • 骨移植の限界: 自家骨や人工骨での再建には限界がある
  • 追加手術のリスク: 修正手術ごとにリスクが累積する
  • 神経損傷の悪化: 再手術でさらに神経を傷つける可能性
  • 高額な費用: 修正手術には初回以上の費用がかかることも
  • 完全回復は不可能: 多くの場合、元の状態には戻せない
  • 繰り返す手術: 一度の修正では改善せず、複数回必要なことも

8. 医療機関選びの重要性

顎削り整形は高度な技術を要する手術であり、医師の経験と技術が結果を大きく左右します。

危険な医療機関の特徴

  • 格安料金: 相場より大幅に安い価格設定
  • リスク説明の不足: 合併症について詳しく説明しない
  • 過度な宣伝: SNSやネット広告での派手な宣伝
  • ビフォーアフターの加工: 写真が明らかに加工されている
  • 専門医資格がない: 形成外科専門医の資格を持たない
  • 経験症例数が少ない: 100例未満の経験しかない
  • 海外での低価格手術: 言語の壁やアフターケアの問題

安全な医療機関の選び方

  • 形成外科専門医: 日本形成外科学会認定の専門医資格を確認
  • 豊富な症例数: 最低でも300例以上の経験
  • 詳細なリスク説明: 起こりうる合併症を包み隠さず説明
  • 術前検査の充実: CT、3Dシミュレーション、神経検査など
  • アフターケア体制: 術後のフォローアップが充実
  • 複数の治療選択肢: 手術以外の方法も提示してくれる
  • 冷静な判断期間: 即日手術を勧めず、十分な検討時間を与えてくれる

9. 手術を受ける前に考えるべきこと

⚠️ 一生後悔しないために

顎削り整形は不可逆的な手術です。一度削った骨は元に戻りません。後遺症が残っても、それと一生付き合っていく覚悟が必要です。手術を受ける前に、以下の質問に正直に答えてください。

  • 本当に必要か?: 健康上の問題ではなく、純粋に美容目的だけなら慎重に
  • リスクを受け入れられるか?: 神経麻痺が一生残っても後悔しないか
  • 周囲の意見は?: 客観的に見て、本当に手術が必要な顔なのか
  • 代替方法は?: メイク、髪型、姿勢改善で対応できないか
  • 心理的準備は?: 6ヶ月〜1年のダウンタイムに耐えられるか
  • 経済的余裕は?: 修正手術や後遺症治療の費用も考慮しているか
  • セカンドオピニオンは?: 複数の医師の意見を聞いたか
  • 冷却期間は?: 最低3ヶ月の検討期間を設けたか

10. 代替方法を検討する

手術以外にも、顔の輪郭を整える方法があります。

  • メイクテクニック: シェーディングで輪郭をシャープに見せる
  • ヘアスタイル: 顔の形に合わせた髪型で視覚的に小顔効果
  • 姿勢改善: 正しい姿勢で顔のラインがすっきり見える
  • 体重管理: 適正体重を維持することで顔のラインも整う
  • 表情筋トレーニング: 安全な方法で顔の筋肉を引き締める
  • マッサージ: 優しいリンパマッサージでむくみを解消
  • ボトックス: 咬筋へのボトックス注射でエラを小さく見せる(手術より低リスク)

まとめ

顎削り整形は、見た目を変えるために顔の骨を削る非常に侵襲的な手術です。神経損傷、顎関節症、顔のたるみ、感染症など、深刻な後遺症のリスクが伴い、一度削った骨は元に戻りません。修正も極めて困難です。美への憧れは自然なことですが、健康と機能を犠牲にしてまで追求すべきものではありません。手術を検討する前に、必ず複数の医師の意見を聞き、十分な情報収集を行い、少なくとも3ヶ月以上の検討期間を設けてください。そして、手術以外の代替方法を試してからでも遅くはありません。あなたの健康と幸せを最優先に考えた選択をしてください。

参考文献

• Complications of mandibular angle reduction surgery: Long-term follow-up (2024)
• Nerve injury in facial bone contouring: A systematic review (2023)
• Psychological outcomes after cosmetic jaw surgery (2024)
• Temporomandibular disorders after orthognathic surgery (2023)