はじめに

韓国を中心に人気を集める「顎削り整形(下顎骨削り術)」。V字ラインの小顔を実現できると宣伝されるこの手術は、日本でも美容整形クリニックで提供されています。しかし、この手術には深刻な後遺症や合併症のリスクが伴います。本記事では、顎削り整形の実態と、手術前に必ず知っておくべきリスクについて詳しく解説します。

1. 顎削り整形とは

顎削り整形(Mandibular angle reduction surgery)は、下顎骨の角部分やエラ部分を削って、顔の輪郭を細く見せる外科手術です。

  • 手術方法: 口腔内から切開し、下顎骨を直接削る
  • 手術時間: 通常2〜4時間
  • 麻酔: 全身麻酔が必要
  • 費用: 日本では約80〜150万円、韓国では約40〜100万円
  • ダウンタイム: 2〜4週間の腫れ、6ヶ月〜1年で完全回復

2. 手術直後の合併症リスク

⚠️ 重大な合併症

顎削り整形は骨を切除する大掛かりな手術であり、以下のような重大な合併症リスクがあります。

神経損傷(最も深刻なリスク)

  • 下歯槽神経損傷: 下唇や歯茎の感覚麻痺(発生率: 約5〜15%)
  • 永続的な麻痺: 一部のケースでは一生回復しない
  • 顔面神経損傷: 顔の動きが制限される可能性
  • 三叉神経痛: 慢性的な顔面痛が発生することも

出血と血腫

  • 術中大量出血: 下顎骨周辺には太い血管が密集
  • 術後血腫: 手術部位に血液が溜まり再手術が必要になることも
  • 気道閉塞: 腫れや血腫により呼吸困難に陥る危険性

感染症

  • 骨髄炎: 骨の感染症で、長期治療が必要
  • 術後感染: 抗生物質による治療が必要
  • 敗血症: 重篤な場合、全身性の感染症に進行

3. 長期的な後遺症と機能障害

顎関節症の発症率

顎削り整形後の患者の約320〜30%が、顎関節症(TMD)の症状を経験すると報告されています。一般人口の有病率34%と比較しても、手術経験者のリスクは明らかに高くなります。

顎関節症(TMD)の発症

  • 顎の構造変化: 骨を削ることで顎関節の位置関係が変わる
  • 噛み合わせの狂い: 骨格が変わることで歯の接触関係が変化
  • 慢性的な痛み: 顎関節周辺の痛みが持続
  • 開口障害: 口が大きく開けられなくなる
  • クリック音: 口を開閉するたびに関節から音が鳴る

咀嚼機能の低下

  • 咬合力の減少: 噛む力が弱くなる(通常の50〜70%程度に低下)
  • 食べられるものが限られる: 硬い食品や繊維質のものが噛めない
  • 食事時間の延長: よく噛めないため食事に時間がかかる
  • 栄養不足: 食べられるものが限られることで栄養バランスが偏る

審美的な問題

  • 非対称: 左右のバランスが不均等になる
  • 顔のたるみ: 骨の支持を失った軟部組織が下垂する
  • 老化の加速: 20代で手術しても30代後半には顔のたるみが顕著に
  • 不自然な輪郭: 削りすぎて「作り物」のような顔になる

4. 心理的な後遺症

📊 心理的ストレスとの関連

2024年の研究では、TMD患者は一般人口と比較して心理的ストレスレベルが有意に高いことが示されています。手術後の合併症はさらなるストレスを生み出します。

手術の結果に満足できない、あるいは深刻な合併症を経験した患者は、心理的な問題を抱えることがあります。

  • 身体醜形障害(BDD)の悪化: 手術前から持っていた体型への不満がさらに強くなる
  • うつ病: 後遺症や期待と異なる結果により抑うつ状態に
  • 不安障害: 慢性的な痛みや機能障害による不安
  • 社会的孤立: 人前に出ることを避けるようになる
  • 自尊心の低下: 手術の失敗により自己評価が下がる

5. 修正手術の困難さ

顎削り整形で問題が生じた場合、修正は極めて困難です。

  • 骨は再生しない: 一度削った骨は元に戻らない
  • 移植の限界: 骨移植や人工骨による修正には限界がある
  • 繰り返し手術のリスク: 修正手術ごとにリスクが累積する
  • 高額な費用: 修正手術には初回手術以上の費用がかかることも
  • 完全回復は不可能: 多くの場合、元の状態に戻すことは不可能

6. 代替案を検討する

小顔効果を求めるなら、手術以外の方法も検討しましょう。

  • メイクテクニック: シェーディングやハイライトで輪郭をシャープに見せる
  • ヘアスタイル: 顔の形に合わせた髪型で視覚的に小顔効果
  • 姿勢改善: 正しい姿勢で顔のラインがすっきり見える
  • 表情筋トレーニング: 顔の筋肉を鍛えて引き締める(安全な方法で)
  • 体重管理: 適正体重を維持することで顔のラインもすっきり

7. 手術を検討する場合の必須事項

どうしても手術を受けたい場合は、以下の点を必ず確認してください。

  • 形成外科専門医の資格: 日本形成外科学会認定の専門医であることを確認
  • 豊富な症例数: 最低でも100例以上の経験がある医師を選ぶ
  • リスクの詳細説明: 合併症について包み隠さず説明してくれる
  • 3D画像シミュレーション: 術後のイメージを正確に把握できる
  • セカンドオピニオン: 複数の医師の意見を聞く
  • 冷静な判断期間: 最低でも1ヶ月の検討期間を設ける

まとめ

顎削り整形は、見た目を変えるために顔の骨を削る非常に侵襲的な手術です。神経損傷、顎関節症、咀嚼機能の低下など、深刻な後遺症のリスクが伴います。一度削った骨は元に戻らず、修正も極めて困難です。美への願望は自然なことですが、健康と機能を犠牲にしてまで追求すべきものではありません。手術を検討する前に、必ず十分な情報収集を行い、リスクを正しく理解した上で慎重に判断してください。

参考文献

• Complications of mandibular angle reduction surgery: A systematic review (2023)
• Temporomandibular disorders after orthognathic surgery (2024)
• Psychological outcomes in cosmetic jaw surgery patients (2024)
• Nerve injury in facial bone contouring surgery (2023)