はじめに

「小顔になりたい」「フェイスラインをシャープにしたい」——こうした美への願望は自然なものですが、近年、その願望につけ込んだ危険な医療行為が広がりつつあります。特に「小顔のための抜歯治療」は、医学的根拠に乏しく、深刻な健康被害をもたらす可能性が高い施術です。本記事では、小顔抜歯の実態と、その背後に潜む医療リスクについて詳しく解説します。

1. 小顔抜歯とは何か

小顔抜歯とは、顔を小さく見せることを目的として、健康な歯を抜く施術です。主に以下のような理由で行われます。

  • 顎のラインをシャープにする: 歯を減らすことで顎の骨が細くなり、小顔効果が得られるという触れ込み
  • 歯列矯正との組み合わせ: 矯正治療と称して、不要な抜歯を勧められるケース
  • 美容クリニックでの施術: 歯科医療の専門知識を持たない美容クリニックで行われる場合も

しかし、これらの施術には医学的な根拠がほとんどなく、むしろ重大な健康被害を引き起こす危険性があります。

2. 抜歯による顎関節への影響

💡 顎関節症(TMD)のリスク

2023年の大規模調査によると、世界人口の約34%がTMD(顎関節症)の症状を経験しており、3人に1人が何らかの顎の問題を抱えています。特に女性は男性の1.56倍リスクが高いことが判明しています。

不必要な抜歯は、この顎関節症を引き起こす重大な要因となります。歯を失うことで:

  • 噛み合わせのバランスが崩れる
  • 顎関節に過度な負担がかかる
  • 顎の動きが制限される
  • 慢性的な痛みが発生する

3. 噛み合わせの崩壊

歯は一本一本が重要な役割を担っており、どれか一本でも失われると、全体のバランスが崩れます。

  • 歯の移動: 抜歯した部分に向かって、隣接する歯が傾いてくる
  • 対向歯の伸長: 上下の歯が噛み合わなくなり、対向する歯が伸びてくる
  • 咬合高径の低下: 噛み合わせの高さが低くなり、顔貌が変化する
  • 顎位のずれ: 顎の位置そのものがずれてしまう

4. 顔貌の変化と老化促進

皮肉なことに、小顔を目指して行った抜歯が、かえって顔貌を悪化させることがあります。

  • 頬のこけ: 歯を支えていた骨が吸収され、頬がこける
  • 口元の後退: 歯列全体が後退し、老けた印象になる
  • 法令線の深化: 口周りの支持が失われ、しわが深くなる
  • 口角の下降: 筋肉のバランスが崩れ、不機嫌な表情に見える

5. 咀嚼機能の低下

柔らかい食事の影響

近年の研究では、柔らかい食事ばかりを続けることで、子どもの顎のサイズが8%小さくなることが報告されています。

歯を失うことで最も直接的な影響を受けるのが、咀嚼機能です。

  • 食べられるものが限られる: 硬いものや繊維質のものが食べにくくなる
  • 栄養バランスの偏り: 柔らかいものばかり食べるようになり、栄養が偏る
  • 消化器への負担: よく噛めないため、胃腸に負担がかかる
  • 全身の健康悪化: 栄養不足や消化不良から、全身の健康が損なわれる

まとめ

小顔抜歯は、医学的根拠がなく、重大な健康被害をもたらす危険な施術です。一時的な美への憧れが、一生の後悔につながることもあります。美容目的であっても、歯や顎に関する施術を受ける際には、必ず信頼できる歯科医師に相談し、十分な説明を受けることが重要です。

参考文献

• Prevalence of temporomandibular disorders: A systematic review (2023)
• Effects of soft diet on craniofacial growth (2024)
• Psychological stress in TMD patients (2024)